引き継いだ名船「みゆき号」と描く未来
昨年、会社が久栄建設へと変わりそれと同時に34歳という若さで「みゆき号」の船長に抜擢された。
高校卒業から15年、ずっと同じ船に乗り続けてきたからこそ分かる絆と、船長として背負う新たな責任。
静かに焼酎のグラスを傾けながら、今日も潮を読み仲間と家族のために舵を握り続ける。
船長一年目、手塩にかけて育てる「自分の船」
船長になって一年。ようやくこの船が少しだけ自分の船になってきた。
高校を卒業して最初に就職したのは、船を解体する会社だった。
もともと船には縁があったから、ロープを扱うことにも抵抗はなかった。
その後、みゆき港湾へ入り気がつけば十五年近く、ずっと海の上で仕事をしてきた。
昨年、会社が久栄建設へ変わりそれと同じタイミングで船長を任された。
船長になったからといって、急に何かが変わるわけじゃない。毎日船を動かし、現場へ向かい、仲間と仕事をする。それは今までと同じだ。
でも、一つだけ確実に変わったことがある。責任だ。
船を安全に着けること。船を安全に帰すこと。そしてこの船そのものを守ること。
船長の仕事は操船だけじゃない。
クレーンのエンジンも、発電機も、船の機械も、全部自分たちで面倒を見る。
オイル交換をして錆を落として、時間があれば塗装もしたい。
古い船だから、手を掛ける場所はいくらでもある。それでも、この船が好きだ。
潮を読み、呼吸を合わせる「チーム戦」の醍醐味
現場で一番気持ちいい瞬間は、船を思った通りの場所へぴたりと着けられた時。
風を読む。潮を読む。波を読む。
アンカーを打ち、船を安定させる。
ほんの少しのズレが、そのあとの仕事に大きく影響する。きれいに決まった時は思わず心の中でガッツポーズをしてしまう。
海の仕事は、力だけではできない。
重たいものはクレーンが持ってくれる。だけど、波だけは誰にも止められない。
船が上下すれば、吊っている石も一緒に上下する。その揺れを読みながら、海の中の決められた場所へ据え付けていく。
クレーンオペレーターとの呼吸。船員との合図。誰か一人でもズレれば安全な仕事にはならない。だから海の仕事は、いつもチーム戦だ。
洋上の共同生活と、家族がくれる原動力
今担当している現場は三か月を超える長丁場だ。平日は船で暮らし、金曜日の仕事終わりに家へ帰る。
最初は長いと思った。
でも、不思議と慣れるものだ。五月には船のシャワーも新しくなった。
週末に買い物をして、一週間分の食材を積み込み三人で共同生活を送る。
仕事が終われば焼酎を一杯。ドラマを観たり、漫画を読んだり。
派手な時間じゃない。でも、その静かな時間がまた明日も安全に仕事をするための大切な切り替えになっている。
家へ帰れば、八歳と四歳の娘が待っている。
今は休みの日になると、昔のようにテニスをするより家族と過ごす時間の方が増えた。
船長として船を預かる責任。 父親として家族を守る責任。その両方が今の自分を支えている。
まだ船長になって一年。
先輩船長たちの背中は、まだまだ遠い。
それでも十五年間積み重ねてきた経験を信じて、今日も潮を読み、風を読み、この船の舵を握る。
海は毎日違う。
だから、この仕事は十五年経っても飽きることがない。
そして明日の仕事を思いながら、今夜も静かに焼酎のグラスを傾ける。