宿命の海、2つのプロフェッショナル
巨躯のクレーンが、波間に向かって咆哮(ほうこう)を上げる。
瀬戸内の穏やかな凪の日もあれば、吹き付ける強風に白波が立つ日もある。
海という、一秒先も予測のつかない特殊な環境。そこが久栄建設の主戦場だ。
総勢50人弱のプロフェッショナル集団。彼らの仕事は、陸の上の土木工事とは一線を画す。
そこには、役割の異なる2つの情熱が火花を散らしている。
ひとつは、海の上でダイナミックに機動力を振るう30名弱の「船の乗組員」たち。
そしてもうひとつは、その巨大なプロジェクトの設計図を引き、工程と安全のすべてを司る20名弱の「現場監督(施工管理)」たちだ。
海を奔る(はしる)乗組員と、陸から海を見つめ、あるいは共に船に乗り込んで指揮を執る現場監督。
この双方がそれぞれのプロフェッショナリズムをぶつけ合い、信頼で結ばれて初めて、国家レベルの大型工事や、人々の暮らしを守る港湾インフラが完成する。
それは、一瞬の油断も許されない、男たちの真剣勝負の舞台だ。
船という名の「家」で、寝食を共にする
ひとたび大型プロジェクトが始まれば、彼らは長期の遠方出張へと赴く。
過去には、東北の復興支援に約8年。直近でも、鹿児島の地に約2年。地元を離れ、彼らが向かうのは、船という名の「動く家」だ。
数ヶ月におよぶ乗船生活。そこには特有の連帯感がある。
船内には個室が完備され、一人のプライベートは厳格に守られているが、一歩部屋を出れば、そこには共用の食堂や風呂がある。
船長を中心に、船ごとに異なるカラーや独特の空気感が醸成され、チームはいつしか「家族」のようになっていく。
「毎日家に帰れるわけではない。だからこそ、報いたい」、代表は、現場の過酷さを誰よりも知っているからこそ、待遇面での妥協を一切しない。
現場監督と比べても、船の乗組員には毎月45,000円の「食料金」を支給。
固定残業代や長期出張手当を別途支給し、遠方から帰省するための交通費まで会社が全額負担する。
江田島市内に用意された3カ所の社宅は、日本人は家賃無料、外国人スタッフも半額を会社がサポートする。
船上にいる間は、お金を使う機会がほとんどない。気がつけば、通帳には驚くほどの貯金が刻まれている。
それもまた、過酷な海と対峙する人間への、会社からの目に見える敬意のカタチだ。
「前向きさ」という、最強のパスポート
「求めているのは、最初から持っている器用さじゃない。前向きに、貪欲に覚えようとする姿勢だけだ」 代表は静かに、しかし確信を込めて語る。
今、現場では面白い化学反応が起きている。
高校を中退したばかりの日本の若者や、遥か海を越えてやってきた2名のインドネシア人スタッフが、歳の離れたベテラン船長や現場監督の懐(ふところ)に飛び込み、「これ、教えてください!」と目を輝かせているのだ。
未経験なら、わからなくて当然。大事なのは、指示を待つだけの指示待ち人間になるな、ということ。
人よりできるようになろうという向上心があるか、どうか。
自動車免許しか持たずに入社した若者が、会社の全面バックアップのもと、小型船舶免許をとり、クレーンを操り、溶接の火花を散らす一端の職人へと変貌していく。
現場監督たちもまた、未経験の若者を一人前の技術者に育てるため、時に厳しく、時に親身になって知識を授ける。
「ここで身に付けた貪欲な姿勢とスキルは、たとえいつかうちを辞める日が来たとしても、人生を裏切らない一生の財産になる」 その親心のような情熱が、久栄建設の現場には満ちている。
託される信頼、そして世代交代へ
代表は明かす。船の乗組員は直行直帰が基本であり、社長である自分自身が毎日現場の船内に顔を出せるわけではない。
「だからこそ、現場のことは信頼できる船長、そして現場監督にすべてを任せている」
この「任せる」という重みが、人間を育てる。
現在、会社を引っ張っている中間層の責任者や船長たちも、かつては10代後半で門をたたき、海の上で揉まれ、泥臭く這い上がってきたメンバーだ。
彼らもまた、下の人間をどう動かすか、どう命を守るかに悩み、苦しみながら、責任ある立場として大きく殻を破ってきた。
現場に信頼を託すからこそ、会社は今、フォロー体制をさらに強化しようとしている。
実際に船ではたらくスタッフや、現場で板挟みになる監督たちの本音や課題を丁寧に汲み取り、経営陣がフィードバックする。
現場を孤独にさせないための、新しい血通う仕組み作りが始まっている。
世代交代の足音は、確実に近づいている。
今新しく入ってくる若い世代も、将来的には当然、次の責任者や船長という重要なポジションに就く可能性を秘めている。
陸を固める現場監督の誇りと、海を征くクレーン作業員の執念。
その2つが交錯する久栄建設という大きな船の舵を、次の時代に握るのはいま迷いながらも、その手を伸ばそうとしている君かもしれない。